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京都地方裁判所 平成2年(行ウ)30号 判決

京都市中京区河原町通二条上ル清水町三五九番地

原告

株式会社 窪田

右代表者代表取締役

窪田操

右訴訟代理人弁護士

豊島時夫

石川元也

森山淳哉

道下徹

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

後藤田正晴

右指定代理人

島田睦史

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二億七、九〇四万八、六〇〇円及びうち金六、七八八万四、二〇〇円については、昭和六三年四月二〇日から、うち金二億一、一一六万四、四〇〇円については、平成元年五月二八日から、いずれも右金員支払決定に至るまで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  請求の類型(訴訟物)

本件は、原告が租税特別措置法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの、以下、措置法という)六三条一項一号(以下、土地重課規定という)に基づき納付した法人税を次の理由により誤納金として、これと還付加算金の返還を請求するものである。

土地重課規定は、憲法一四条一項、二一条、二二条一項、二九条一項、三項及び八四条に違反し、違憲無効である。したがって、法律上の原因に基づかない右土地重課規定による納税額は国税通則法五六条所定の誤納金に当たるから、同誤納金の返還と各誤納日の翌日から、支払い決定まで国税通則法五八条一項所定の年七・三パーセントの割合による還付加算金の支払いを求める。

二  前提事実(争いがない事実)

1  原告は、昭和六一年七月一日から同六二年六月三〇日までの事業年度(以下、本件事業年度という)の法人税について、同年八月三一日、確定申告書を所轄中京税務署長に提出する際、次のとおり法人税を同署に納付した。

措置法の土地重課規定に基づく、短期所有土地等の譲渡等の譲渡利益金額の合計額の一〇〇分の二〇の割合にあたる金六、七八八万四、二〇〇円を所得金額に対する法人税額に加算した合計一億七、五七九万四、六〇〇円。但し、以下のとおり分納した。

(1) 同年一二月三日に五、〇〇〇万円。

(2) 同六三年一月二一日に一、〇〇〇万円。

(3) 同年二月二四日に二、〇〇〇万円。

(4) 同年三月二日に三、〇〇〇万円。

(5) 同月二三日に二、五七九万四、六〇〇円。

(6) 同年四月二一日に四、〇〇〇万円。

2  原告は、大阪国税局の査察を受け、本件事業年度の法人税について、昭和六三年一二月一四日、修正申告書を同署長に提出した。

3  右修正により、土地重課規定による短期所有土地等の譲渡等の譲渡利益金額の合計額の一〇〇分の二〇の割合に当たる税額は金二億七、九〇四万八、六〇〇円となった。そこで、右金額と確定申告の際の同税額六、七八八万四、二〇〇円との差額金二億一、一一六万四、四〇〇円を修正申告に係る所得金額に対する法人税額に加算し、その合計六億三、一一六万四、四〇〇円を平成元年四月二八日に同署に納付した。

三  争点

土地重課規定が憲法一四条一項、二一条、二二条一項、二九条一項、三項及び八四条に違反するか否か。

第三争点の判断

一  憲法一四条一項違反について

1  法律の不均等取扱による不平等

(一) 原告の主張

(1) 法人の中でも、大企業の場合は、資金調達の必要を生じても、証券市場や金融機関を通じての資金調達など他に方法があるから、一〇年間土地を保有して、土地重課規定の適用を免れることもできる。しかし、資金力のない中小企業の場合、他に資金調達の方法がないため、土地重課規定の下でも、その所有土地を処分するほかない。そうすると、事実上、土地重課規定は資金力のない中小企業のみに適用されることとなって、大企業との間に法適用上の不平等が生ずる。したがって、土地重課規定は、憲法一四条一項に違反する。

(2) 土地重課規定は、土地譲渡所得者と他の資産の譲渡所得者とを区別するものであるが、右区別は、その立法目的の不当性、手段の不合理性に照らし、憲法一四条一項に違反する。

〈1〉 土地重課規定の立法目的の不当性

土地重課規定は、法人による土地の投機的買占めを抑制することによって、地価高騰の抑制を図ることを主目的とし、合わせて土地の供給促進にも配慮したものである。しかし、投機であれ、投資であれ、土地を買ってこれを留保すれば土地の需要が逼迫し地価高騰の原因となる。このことは投機と投資の間に何ら差異はないのだから、土地投機のみを抑制することは不可能である。したがって、同規定の立法目的は土地投機及び土地投資による土地買占めを抑制するところにある。法人の正当な事業として許されるべき土地投資をも規制する点で立法目的は不当である。しかも、本来、租税立法は、財政上の必要から制定すべきものであり、このように専ら地価上昇を防止することを土地重課規定の目的とすることは、租税法の目的を甚だしく逸脱する。

〈2〉 土地重課規定の手段としての不合理性

仮に、右立法目的が不当ではないとしても、次のとおり、土地重課規定は右目的を達成する手段として不合理である。

措置法六三条一項一号の定める短期所有土地等(所有期間が一〇年以下のもの)の売買では、その時点における金融事情、その土地の将来性、税制等諸事情を総合しての適正価格以上で取引されることはない。また、当該物件はすぐに市場に流通することになるのだから、仮に不動産業者などが右売買によって利鞘を稼いだとしても、そのことによって適正価格以上に地価が高騰することはない。

むしろ、地価の高騰は、金融機関の融資の緩和による土地需要の増大及び大企業の長期的利益を目的とする投資的土地取得が原因である。それ故、前記立法目的の達成には、金融を引き締めて土地購入の資金量を抑制し、税制を改正して土地の保有が他の資産の保有より有利にならないようにすること(たとえば、市街化区域内の農地の宅地並課税など)が必要であり、かつ、それで十分である。

なお、措置法で昭和四四年一月一日以降取得した土地を譲渡して利益を生じた場合に重課する旨を規定しながら、他方で、同日以降取得した土地に地方税法(昭和四八年法律第二三号)によって特別土地保有税を課税してその放出を早めるというのは二律背反であり、被告の主張の右両税の併用は不合理である。

(二) 被告の主張

(1) 土地重課規定は、法人の大小を問わず、全ての法人に適用されるから、中小企業と大企業との間に法適用上の不平等はない。

(2) 土地重課規定は、土地譲渡所得者と他の資産の譲渡所得者とを区別するものであるが、右区別は、次のとおりその立法目的の正当性、手段の合理性に照らし、憲法一四条一項に違反するものではない。

〈1〉 土地重課規定の立法目的の正当性

昭和四四年に導入された土地税制は、個人の長期保有土地の供給促進という面ではそれなりに効果があったものと評価されている。もっとも、一面において、右税制は法人の土地取引に対しては格別の措置を講じていなかった。そのため、昭和四六年以降の金融緩和の影響の下に個人から放出された土地が法人に取得されたまま投機的に買い占められて、留保され、地価が高騰することとなった。そこで、右税制を補完するものとして、法人による土地投機の抑制を主目的としつつ、合わせて土地の供給促進にも配慮するという基本的な考え方のもとに本件土地重課規定が設けられたものであって、その立法目的は正当である。

また、租税法規の立法は、国民経済の成長、安定、当時の財政、社会政策等あらゆる要素を総合考慮してなすべきものである。それ故、右土地重課規定が、専ら法人の土地投機を抑制し、地価高騰を防止することを目的に制定されたものであるとしても、そのことをもって直ちに租税法の目的を逸脱したことにはならない。

〈2〉 土地重課規定の手段としての合理性

土地重課規定は、法人の土地譲渡益に重い税金を課し、土地の譲渡による期待利益を減少させ、土地で儲けるうまみを少なくすることによって異常な土地投機を鎮静させ、投機的な需要による地価の高騰という事態を解消することを目的として創設された。その一方で、右制度が土地の供給に対しては抑止的に働く場面があるため、その販売価格が適正利益である等の一定の要件を充たす優良宅地を供給する場合には土地重課規定の適用除外とする途が設けられ、さらに、特別土地保有税が創設されている。しかも、本件土地重課規定が総合的な土地政策の一翼を担うものとして土地投機の抑制に極めて効果的であったことは公知の事実であるから、当該規定が前記立法目的を達成する手段として著しく不合理であるとはいえない。

(三) 検討

(1) 中小企業と大企業との法適用上の不平等

土地重課規定は、法人の大小を問わず、すべての法人について適用されるものであるから、原告主張のように法適用上の不均等があるとはいえず、憲法一四条一項違反の問題は生じない。もっとも、土地重課規定の適用を受けているのが原告主張のように事実上ほとんど全部が中小企業であり、かつ、そのことが右規定の制度自体にのみ起因しているといえる場合であるならば、憲法一四条一項違反の問題を生ずる余地がある。

しかし、本件全証拠によっても、右適用上の不均等が生じていることを認めるに足りない。したがって、原告の右主張は採用できない。

(2) 土地譲渡所得者と他の資産の譲渡所得者との不平等

イ 憲法一四条一項の平等の保障は、憲法の最も基本的な原理の一つであり、課税権の行使を含む国のすべての統治行動に及ぶ。しかし、国民各自には具体的には多くの事実上の差異が存するので、これらの差異を無視して均一の取扱いをするのは、かえって国民の間に不均衡をもたらす。

憲法の右規定は、国民に対し絶対的な機械的平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨である。

したがって、国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではない(最判(大法廷)昭和二五・一〇・一一・刑集四巻一〇号二〇三七頁、同(大法廷)昭和三九・五・二七・民集一八巻四号六七六頁など参照)。

ロ そこで、土地重課規定の所得の種類による区別の合理性を検討する。租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有している。そして、国民の租税負担を定めるについては、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とする。

したがって、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についてその保持する正確な資料を基礎とした立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ない。そうであるとすれば、租税法の分野における取扱の区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法一四条一項の規定に違反するものということはできないと解するのが相当である(最判(大法廷)昭和六〇・三・二七・民集三九巻二号二四七頁参照)。

なお、原告は、土地重課規定の定立は正確な資料を基礎としたものではないから、本件において立法裁量は認められないと主張する。しかし、本件全証拠によっても、土地重課規定が立法裁量が許されない程著しく不正確な誤った資料を基礎としてなされたものと認めるに足りない。

したがって、原告の右主張は失当である。

ハ 土地重課規定の立法目的について検討する。

証拠(甲三〇、三一、四九、五〇、乙一、二、四)によれば、右立法目的は次のとおりである。

個人保有土地に係る長期譲渡所得の分離軽課及び短期譲渡所得の分離重課という昭和四四年度改正の土地税制により、個人保有土地の放出は促進された。しかし、法人の土地取引については格別の措置が講じられなかったため、昭和四四年度の個人の譲渡所得課税の改正以後、個人から放出された土地が法人によって取得されたまま投機的に留保され、最終的な供給増加となっていない場合が少なくなかった。そのうえ、昭和四六年以降の金融緩和の影響の下に法人による土地取得が顕著になるに及んで、これが地価の高騰に拍車をかけることとなった。

そこで、これに対する規制措置を講じ、昭和四四年度の個人についての土地税制を補完する意味を含めて、法人による土地投機の抑制を主たる目的としつつ、合わせて土地の供給促進にも配慮するという考え方のもとに、昭和四四年一月一日以後に取得した土地につき、法人の土地重課制度が創設された(昭和四八年法律第一六号)。これと同時に右制度の欠点を補完し土地の供給促進を図る意味を含めて地方税として特別土地保有税が設けられたものである(なお、土地重課規定は、昭和五七年度の改正により、所有期間が一〇年以下の土地を対象とすることに改められている)(甲四九、乙三)。

租税法の定立については、前示のとおり、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を要し、立法府の裁量的判断に委ねられている。だから、土地重課規定が主として法人の土地投機を抑制し、地価高騰を防止することを目的としていても、この重課によって国家の財政需要を充足するものである以上、租税法の目的を逸脱したことにはならない。また、右規定は土地投機の抑制のみを目的としている。そうであるのに、これにより土地投資の抑制の効果をも生ずるとしても、また、実質上右規定の目的が土地投機又は土地投資による土地の買占め及び留保を抑制することにあったとしても、そのことによって右立法目的が不当であるということはできない。

したがって、土地重課規定の立法目的の正当性が認められる。

ニ 土地重課規定の右立法目的を達成する手段としての合理性につき検討する。

(イ) そもそも、地価高騰は、土地の需要の増加に対し、その供給量が限定されるために生ずる。その土地需要の増加の一因が金融緩和にあるとしても、法人による土地の投機的譲渡もその一因となっていることは否定できない。そうであるから、地価高騰の抑制という立法目的と土地の譲渡益に重課して土地譲渡によるうまみを減少させ、転売利益獲得のための投機的ないし投資的需要を抑制することとの間には、合理的な関連性が認められる。したがって、土地重課規定によって土地譲渡所得者と他の資産の譲渡所得者との間に区別がなされているとしても、それは前記立法目的を達成するための合理的な手段であるといえる。

(ロ) また、原告の主張するような立法目的を達成する上で他の選びうる手段(金融を引き締めることで土地購入資金を抑制するとか、市街化区域内の農地に宅地並に課税するなど)があるとしても、それらの手段のうちどれを選択するか否かは、立法政策に属する問題である。

そして、土地の供給遅滞を解消するために特別土地保有税を実施する場合、猶予期間を置かず、これと同時に実施したとしても、そのこともまた立法府の裁量の範囲の問題であるから、これをもって土地重課規定がその立法目的を達成するうえで不合理なものとはいえない。

(ハ) なお、原告は、こう主張する。極めて専門的・技術的判断を要する租税立法の違憲性判断においては、同じく専門技術的な判断を要する原子炉設置の場合に関する最高裁判例(最判平成四・一〇・二九・民集四六巻七号一七四頁)の趣旨が妥当する。そうであるから、その立法の基礎資料を有している被告側において、まず、土地重課規定が地価高騰抑制に効果があると判断したこと及びそれが正確な資料に基づくことの立証をなすべきである。その立証のない本件では、土地重課規定が憲法に違反していると事実上推認される、というのである。

しかし、憲法訴訟で問題となる立法事実の認定は、本来法律の解釈問題の一つとして裁判所の専権に属する事項であるから、これにいわゆる司法事実に関する立証責任の分配の観念を容れる余地はない。

したがって、原告の右主張は採用できない。

ホ 以上のとおり、土地譲渡所得者と他の資産の譲渡所得者との間の区別的取扱は、合理的な区別として憲法一四条一項に違反しないものである。

2  応能負担の原則違反による不平等

(一) 原告の主張

憲法一四条一項の保障は、応能負担の原則に基づき担税力に応じて納税者を区別して課税しなければならないという平等の要求をも含む。そうである以上、担税力の指標は、法人の所得の一形態である譲渡益にではなく、損益を通算した最終的な所得に求めるべきである。土地重課規定は、右指標に応じた課税をせず、土地譲渡益をも合算した法人の特定の事業年度の事業所得が零ないし欠損であっても、土地に譲渡益がある限り課税するもので、所得がないのに課税される点で応能負担の原則に反し、憲法一四条一項の実質的平等の要求に反する。

(二) 被告の主張

担税力の指標を何に求めるかはそれぞれの場合に応じて異なり、必ずしも最終的な所得金額のみに限られるものではない。そうであるから、土地の譲渡益自体をもって一つの担税力の指標としても、応能負担の原則及び憲法一四条一項に反しない。

(三) 検討

(1) 租税負担の公平は、同じ経済的な地位にある者は、同じ租税負担を負うということである。これに基づき、租税負担は各人の担税力に応じ国民の間に配分されるべきであるという応能負担の原則がとくに所得税制の基本的準則とされている。

この原則は、納税者相互間の公平として等しい担税力をもつ納税者は等しい税負担を負うといういわゆる水平的公平を要求する。水平的公平は、憲法一四条一項本来のいわゆる形式的平等(機会の平等)に由来するものといえる。 また、応能負担の原則は、この水平的公平のほか、税負担は比例税率によってではなく累進税率で配分すべきものとする垂直的公平を要求する。

これは、憲法一四条一項の本来の形式的平等に含まれるものではなく、実質的平等に関するものである。

(2) 憲法一四条一項は、個人の人格的価値の平等を前提に、国家による差別的な取扱を禁止するものであって、同条の保障する「平等」は、本来、不均等取扱の禁止という形式的平等(機会の平等)を意味する。

しかし、自由主義市場経済の高度化に伴い、貧富の差の拡大など社会的、経済的不平等が生じてきた。そのため、現代の福祉国家の理念をもつ憲法の下では、単に個人に活動の機会を平等に保障するという形式的平等を実現するだけではなく、右の結果生じた社会的、経済的不平等を是正し、結果の平等を求める実質的平等の実現が求められる(憲法二五条以下参照)。

そうすると、憲法一四条一項の法の下の平等は、単に形式的平等違反を禁じ、平等権を保障するに止まらず、国家による実質的な平等原則の保障も含むと解するのが相当である。

もっとも、実質的平等、とくに経済的な実質的平等の要求は、国家による経済的平等の実現という点で社会権的基本権と共通する理念的性質を有する。しかも、その保障の方法、手続などが憲法上明確にされていないので、法律によりその実質的平等規定の具体化がなされている場合に限って、その当否の判断をめぐり、これが裁判規範となるにすぎない。また、実質的平等は、きわめて抽象的かつ相対的な概念であるから、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件等との相関関係において判断されるべきものである。そこで、右要請を現実の立法として具体化するには、高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断とを要するから、右実質的平等の趣旨にこたえて立法措置を講ずべきか否か、またその具体的内容の選択決定は、立法府の幅広い裁量に委ねられている。したがって、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合を除き、裁判所がこの点につき審査判断することはできない。

(3) たしかに、総合所得の観点からのみみれば、他の事業の欠損との差引勘定により総合所得がない場合にも、これとは別に土地譲渡益を取り上げて重課税を課すのは、土地譲渡益のない法人との間で前示のとおり、等しい担税力をもつ納税者は等しい税負担を負うという水平的公平ないし形式的平等に反するといえなくもない。

また、土地重課規定は、法人の他の事業所得と合算せず、土地の譲渡益に担税力を見出したものであるから、これが憲法一四条一項の実質的平等の要求を具体化した規定という余地もある。

(4) しかし、法人の担税力の指標を法人の全所得を通算した最終的な総合所得額にのみ求めなければならないという法的根拠はない。前示のとおり、租税の分野において所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、立法目的が正当で、かつ、区別の態様がその目的と関連性を有し不合理でない限り、形式的平等の要請はもとより、とくにそれが実質的平等の実現の当否に関する場合には、基本的に、それは広範な立法裁量に委ねられている。

そして、土地譲渡益に担税力を見い出した土地重課規定の立法目的の正当性、その手段の合理性等に照らし、土地重課規定が著しく合理性を欠き、明らかに立法裁量の逸脱・濫用とは認められないことは前示のとおりである。

したがって、土地重課規定には、土地譲渡益を有する者の間の水平的不平等はない。また、同規定が最終所得金額に応じた比例的課税をせず、他の所得とは別に重課税をするという区別的取扱をしているからといって応能負担の原則による垂直的公平、ひいては憲法一四条一項の実質的平等の要求に反するものとはいえない。

二  憲法二一条、二二条一項違反について

1  原告の主張

土地重課規定は、事実上、中小企業を対象にした税制であり、高率の土地重課規定の下では、中小企業の存立、発展は不可能であるから、右規定は、法人の結社の自由、職業選択の自由及び営業の自由を害し、憲法二一条、二二条一項に違反する。

2  被告の主張

土地重課規定の立法目的、課税方法、税率等からみて、右規定が結社の自由、職業選択の自由及び営業の自由を害するものと解すべき根拠はない。

3  検討

土地重課規定は、何ら、法人の結社の自由、職業選択の自由及び営業の自由を制限するものではなく、また、右規定によって中小企業の存立、発展が否定されるような事態が生じていると認めるに足りる的確な証拠がない。

したがって、原告の右主張は失当である。

三  憲法二九条一項、三項違反について

1  原告の主張

(一) 土地重課規定は法人の特定の事業年度の事業所得が零ないし欠損であったとしても、土地に譲渡益がある限り重課する制度であるから、租税の合理的範囲を超えており、土地の譲渡益の取得という財産権を侵害し、憲法二九条一項に違反する。

(二) また、土地重課規定は、たまたま所有期間が一〇年以下の土地を譲渡した法人に重課し、一般的に当然に受忍すべきものとされる範囲を超えて財産上特別の犠牲を課するものであるから、同条三項に違反する。

2  被告の主張

国民が租税の負担に応じることは本来財産権の保障とは別個の問題であるから、土地重課規定が憲法二九条に違反する余地はない。

仮に、租税法律関係に憲法二九条の適用があるとしても、土地重課規定は同条に違反するものではない。即ち、土地投機の抑制をはかるという土地重課規定の目的に照らすと、たとえ法人の各事業年度において所得金額が零ないし欠損の場合であったとしても、各事業年度において法人の土地譲渡等による譲渡利益がある場合には、これに対して課税することは当然である。その結果、所得に対する税負担が計算上高率になったとしても、これは土地投機の抑制を図るという右規定の合理的目的からくる制約にすぎないから、これをもって憲法二九条に反するとはいえない。

3  検討

憲法三〇条は、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」とし、同八四条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定する。これは、国民の納税の義務を憲法上の義務として宣言するとともに、他方、租税が国民から強制的に財産権を奪うものであることに照らし、租税につき、国の唯一の立法機関である国会(憲法四一条)の制定した法律によらなければならないことを定めたものである。そうすると、右国民の納税義務は憲法の条項に由来するのであるから、法律により創設された租税制度が合理的なものである限り、かかる制度による租税の徴収は憲法二九条一項の財産権の保障に反するものではない。また、右租税の徴収の結果、徴税義務者において一定の負担を負うものであったとしても、右負担は同条三項にいう私有財産を「公共のために用ひる」場合には該当せず、同条項の補償を要するものではないというべきである。(最判(大法廷)昭和三七・二・二八・刑集一六巻二号二一二頁参照)。

そして、土地重課規定は、前示のとおり、地価の高騰を抑制するという正当な立法目的を達成するための合理的な規定ということができるから、これが憲法二九条一項及び三項に反するものではない。

四  憲法八四条違反について

1  原告の主張

土地重課規定は、土地譲渡益のみに着目し、法人税の課税標準たる所得金額のない場合であっても法人税として納税義務を課している。しかも、一〇年間以上の長期にわたる保有を土地重課規定の適用免除の条件とするなど不合理なものであって、租税制度を濫用するものであり、憲法八四条の租税法律主義に違反する。

2  被告の主張

土地重課規定の課税構成要件は、措置法により明確に定められているから、租税法律主義に反するとはいえず、土地重課規定は、憲法八四条に違反しない。

3  検討

土地重課規定は、総合的な土地政策の一環を担うものとして前示の趣旨で創設されたものであるから、租税制度を濫用するものということはできない。また、土地重課の課税要件等は法律により明確に定められているから、租税法律主義に反するものではなく、憲法八四条に違反するものとはいえない。

第四結論

以上のとおりであるから、原告の土地重課規定による納税は誤納金といえない。よって、原告の本訴請求を棄却する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 中村隆次 裁判官 河村浩)

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